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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)36号 判決

東京都新宿区上落合1丁目1番15号 落合パークファミリア1011号

原告

堀江公人

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

西山昇

木南仁

吉村宅衛

吉野日出夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成4年審判第4984号事件について平成7年12月13日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年2月6日、名称を「バンド型アンテナ装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)について特許出願(昭和60年特許願第20117号)をしたが、平成4年3月17日に拒絶査定がなされたので、同月27日に査定不服の審判を請求し、平成4年審判第4984号事件として審理された結果、平成7年12月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は平成8年2月10日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(別紙図面A参照)

リストウオッチ型携帯機器本体(1)と

金属板(9、10)を内部に有する腕バンド(2)と

この腕バンドの本体側の一端に形成された舌片(12)とを有し、

前記本体側の一端において

前記本体(1)と前記腕バンド(2)が軸(4)により機械的に接続され、

前記本体(1)内部に設けられたアンテナ回路(13、14、15)に電気的に接続された金具(7)と

前記舌片(12)内部の金属板(9、10)に電気的に接続された金具(11)とが

接触して接続されることを特徴とするバンド型アンテナ装置

3  審決の理由の要点

(1)本願考案の要旨は、その特許請求の範囲に記載された前項のとおりのものと認められる。

(2)これに対して、昭和57年実用新案登録願第160504号(昭和59年実用新案出願公開第64591号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し(以下、「引用例1」という。)及び昭和59年特許出願公開第218985号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の技術的事項が記載されている。

a 引用例1(別紙図面B参照)

送・受信機付電子腕時計本体と

ステンレス板で形成されたアンテナ(3)を内部に有するベルト部分(2)とを有し、

前記本体内部に設けられた送・受信機能が組み込まれたモジュール(5)に電気的に接続されたアンテナ接続端子部(6)と

前記ベルト部分(2)内部のアンテナ(3)に電気的に接続された接続端子(4)とが

圧着により接続された送・受信機付電子腕時計

b 引用例2(別紙図面C参照)

時計ムーブメントと

キーボード基板A(31)を内部に有するバンド基体(29)と

このバンド基体(29)の一端に形成された導電用突起(34)とを有し、

前記時計ムーブメント側の一端において

前記時計ムーブメントと前記バンド基体(29)がバネ棒(39)により機械的に接続され、

前記時計ムーブメント内部に設けられた回路基板(25)と

前記導電用突起(34)内部のキーボード基板A(31)とが

キーボード用コネクタ(37)を介して接触して接続された電子時計であり、

〈1〉 「キーボード基板A31はバンド基体29に形成された導電用突起34まで伸びており、導電性ゴムより成るキーボード用コネクター37を介して回路基板25に電気的に導通している。」(2頁右上欄17行ないし20行)

〈2〉 「時計バンドと外装ケース内部との結合は外胴21に形成されたバンド導通穴35に時計バンドの導通用突起34を挿入することによって行われる。」(2頁左下欄5行ないし8行)

(3)対比

本願発明と引用例1記載のものとを対比すると、両者はいずれもバンド型アンテナ装置に関するものであり、引用例1記載の「送・受信機付電子腕時計本体、ステンレス板で形成されたアンテナ(3)、ベルト部分(2)、送・受信機能が組み込まれたモジュール(5)、アンテナ接続端子部(6)、接続端子(4)」は、それらの機能または構成からみて、それぞれ、本願発明の「リストウオッチ型携帯機器本体(1)、金属板(9、10)、腕バンド(2)、アンテナ回路(13、14、15)、金具(7)、金具(11)」に対応すること、また、引用例1記載の「圧着して接続」は「接触して接続」の一態様であることが明らかであることから、両者は、

「リストウオッチ型携帯機器本体と金属板を内部に有する腕バンドとを有し、前記本体内部に設けられたアンテナ回路に電気的に接続された金具と腕バンド内部の金属板に電気的に接続された金具とが接触して接続されるバンド型アンテナ装置」

である点において一致し、次の点において相違する。

本願発明が、「前記本体側の一端において前記本体と前記腕バンドが軸により機械的に接続され」ており、金属板に電気的に接続された金具を内部に有する「腕バンドの本体側の一端に形成された舌片」により、本体内部のアンテナ回路と電気的に結合されているのに対し、引用例1記載のものは、本体の裏蓋部分と腕バンドとが一体成形されており、軸により機械的に接続する構成及び舌片に相当する構成を備えていない点

(4)判断

引用例2記載の「時計ムーブメント、バンド基体(29)、バネ棒(39)」が、それぞれ、本願発明の「リストウオッチ型携帯機器本体、腕バンド、軸」に相当することは明らかであり、また、引用例2記載の「導通用突起(34)」は、前記〈1〉、〈2〉の各記載及び別紙図面Cからみて、「キーボード基板A(31)」の延長部を有し、「キーボード基板A(31)」と「回路基板(25)」とを、「キーボード用コネクタ(37)」を介して電気的に結合する機能を有することから、本願発明の「舌片」に相当するものと認められる。

してみると、引用例2には、リストウオッチ型携帯機器において、本体側の一端において本体と腕バンドとを軸により機械的に接続するとともに、本体の内部に設けられた電気的構成要素である回路基板と、腕バンドの内部に設けられた電気的構成要素であるキーボード基板Aとを、腕バンドの本体側の一端に形成された舌片を介して接触して接続することが記載されているものと認められる。

ところで、バンド型アンテナ装置において、電気的構成要素であるアンテナ回路を有する本体と、同じく電気的構成要素であるアンテナを内部に有する腕バンドとを別体で構成し、両者を機械的及び電気的に接続することは、例えば、昭和55年実用新案登録願第11512号(昭和56年実用新案出願公開第114493号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し、昭和48年実用新案出願公告第5932号公報に記載されているように、周知の技術手段である。

したがって、引用例1記載のバンド型アンテナ装置において、本体と腕バンドとの機械的接続及び金属板とアンテナ回路との電気的接続に、引用例2記載の構成を採用することは、当業者が容易になしえたことであり、それによって格別の作用効果を奏するものとも認められない。

(5)以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

本願発明と引用例1記載の考案とが審決認定の相違点を有することは認める。しかしながら、審決は、本願発明と引用例1記載の考案との一致点の認定を誤って相違点を看過し、かつ、その認定した相違点の判断を誤って、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)相違点の看過

審決は、引用例1記載の「アンテナ接続端子部(6)、接続端子(4)」は本願発明の「金具(7)、金具(11)」に対応すると認定している。

しかしながら、本願発明が要旨とする金具が接続具(コネクタ)であるのに対し、引用例1記載の接続端子は文字どおり接続端子(ターミナル)であって、互いに接続するための具体的機能を有していないから、両者は明らかに異なる部材である。

この点について、被告は、「金具(7)、金具(11)」が接続するための具体的機能を有することは本願発明の要旨とされていないと主張する。しかし、本願明細書の図面の簡単な説明には、「7…メス型金具」、「11…オス型金具」(本願公報6欄11行、12行)と記載され、別紙図面Aの第2図にも、「17」においてメス型金具とオス型金具とが結合することが記載されているから、被告の上記主張は当たらない。

さらに、審決は、引用例1記載の「圧着して接続」は「接触して接続」の一態様であることは明らかであるとして、本願発明と引用例1記載の考案とは、本体内部に設けられたアンテナ回路に電気的に接続された金具と腕バンド内部の金属板に電気的に接続された金具とが接触して接続されるバンド型アンテナ装置である点において一致すると認定している。

しかしながら、「圧着」とは、圧力を加えて金属同士を密着させ、原子間力によって結合を図ることであるから、いったん接続した後は、再び離れることがない。これに対し、「接触」は、半固定的接続方法であって、接続後も再び離れることが可能であるから、両者は異なる技術手段である。

以上のように、審決は、本願発明と引用例1記載の考案との相違点を看過しており、この相違点の判断の遺脱が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

(2)相違点の判断の誤り

審決は、その認定した相違点の判断において援用した引用例2について、引用例2記載の「導通用突起(34)」は本願発明の「舌片(12)」に相当すると認定している。

しかしながら、引用例2記載の「導通用突起(34)」は、本願発明の金具(11)に当たるものを有していない。このことは、審決が、「導通用突起(34)」はキーボード用基板A(31)と回路基板(25)とを、「導通用突起(34)」とは別個の部材である「キーボード用コネクタ(37)」を介して電気的に結合すると認定していることからも明らかであって、審決の上記認定は誤りである。

のみならず、引用例2記載の発明は計算機付き腕時計に関するものであり、引用例1記載の考案が対象とする送・受信機付電子腕時計とは技術分野が異なる。したがって、引用例1記載のバンド型アンテナ装置の本体と腕バンドとの機械的接続及び電気的接続に、引用例2記載の構成を採用することは当業者が容易になしえたことであるとした審決の判断は、不当である。

そして、審決は、相違点の判断において、相違点に係る構成によって格別の作用効果を奏するものとも認められないと説示している。

しかしながら、本体と腕バンドとを軸と舌片とによって二重に接続して腕バンドの自由な回転を確保し、かつ、腕バンドを本体から容易に取り外すことができるという本願発明の顕著な作用効果は、各引用例記載のものからは予測しえない作用効果である。

したがって、その認定した相違点に係る審決の判断も誤りである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  一致点の認定について

原告は、本願発明が要旨とする金具が接続具(コネクタ)であるのに対し、引用例1記載の接続端子は接続端子(ターミナル)であって互いに接続するための具体的機能を有していないから、両者は異なる部材であると主張する。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には、「金具(7)、金具(11)」が互いに接続するための具体的機能を有していることは規定されておらず、「金具(7)、金具(11)」自体は電気的接続を行いうる端子であれば足りると解すべきであるから、引用例1記載の「アンテナ接続端子部(6)、接続端子(4)」は、それぞれ本願発明の「金具(7)、金具(11)」に対応するとした審決の認定に誤りはない。

また、原告は、「圧着」とは圧力を加えて金属同士を密着させ結合を図る技術であるからいったん接続した後は離れることがないのに対し、「接触」は半固定的接続方法であって離れることが可能であるから、両者は異なる技術手段であると主張する。

しかしながら、本願発明が要旨とする金具(7)と金具(11)との「接触して接続」の技術的意義は、機械的に接触することによって電気的に接続するという意味と解すべきである。一方、引用例1に「6は、モジュール5のアンテナ接続端子部であり、上記アンテナ3の接続端子部4と接続されている。接続は圧着あるいは導電性接着剤等により行われる。」(明細書2頁11行ないし14行)と記載されているように、引用例1にいう「圧着」も、機械的に接触することによって電気的に接続する技術の一態様であることはいうまでもないから、引用例1記載の「圧着して接続」は「接触して接続」の一態様であるとした審決の認定に誤りはない。なお、原告が主張するような意味の「圧着」は、金属加工の技術分野における「圧接」であって、引用例1にいう「圧着」がそのように限定した意味で記載されているとは考えられない。

したがって、審決には相違点の看過は存しない。

2  相違点の判断について

原告は、引用例2記載の「導通用突起(34)」は本願発明の金具(11)に当たるものを有していないから、引用例2記載の「導通用突起(34)」は本願発明の「舌片(12)」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。

しかしながら、引用例2記載の「導通用突起(34)」が、キーボード用コネクター(37)に接触することによって電気的に接続する端子機能を有する導体を備えていることは自明であるから、引用例2記載の「導通用突起(34)」は本願発明の「舌片」に相当するとした審決の認定を誤りということはできない。

また、原告は、引用例2記載の発明は計算機付き腕時計に関するものであって、引用例1記載の考案が対象とする送・受信機付電子腕時計とは技術分野が異なるから、引用例1記載のバンド型アンテナ装置の本体と腕バンドとの機械的接続及び電気的接続に、引用例2記載の構成を採用することは当業者が容易になしえたことであるとした審決の判断は不当であると主張する。

しかしながら、引用例1記載の送・受信機付電子腕時計と引用例2記載の電子時計とは、いずれも「リストウオッチ型携帯機器」であって、同一の技術分野に属するものであるから、原告の上記主張は当たらない。

なお、原告主張の本願発明が奏する作用効果は、引用例2記載の構成によっても当然に奏されるものにすぎないから、作用効果に関する原告の主張も失当である。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証(特許公報)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願発明は、ラジオウオッチあるいはテレビウオッチ等のリストウオッチ等に用いることができる、バンド型アンテナ装置に関する(2欄2行ないし4行)。

リストウオッチは近年その機能を高めているが、その附属装置であるアンテナは、FMラジオやテレビの場合は別途に設けられるので携帯性に欠け(2欄6行ないし3欄2行)、また、十分な指向性あるいは共振長を持たせることが困難である(3欄7行ないし13行)。

本願発明の技術的課題(目的)は、リストウオッチに装備することができ、携帯性があり、十分な共振長と指向性を有するバンド型アンテナ装置を提供することである(3欄17行ないし20行)。

(2)  構成

上記目的を達成するため、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものであって(1欄2行ないし14行)、柔軟性を有する金属板を内部に埋め込んだ樹脂性バンドと、この樹脂性バンドの一端に形成され、前記金属板に電気的に接続されたコネクタと、このコネクタに接続されたアンテナ回路とを備えたことを特徴とする(3欄23行ないし26行)。

(3)  作用効果

本願発明によれば、別段の附属アンテナを用いることなく、外観を従来のリストウオッチとほぼ同一のままにすることができる。したがってリストウオッチの多機能化が可能である(5欄12行ないし6欄3行)。

2  一致点の認定について

原告は、本願発明が要旨とする金具が接続具(コネクタ)であるのに対し、引用例1記載の接続端子は文字どおり接続端子(ターミナル)であって、互いに接続するための具体的機能を有していないから、両者は異なる部材であると主張する。

しかしながら、本願発明が要旨とする本体(1)側の金具(7)及び舌片(12)側の金具(11)は、特許請求の範囲においては「接触して接続される」と規定されているのみであるから、機械的に接触することによって電気的接続を行いうる端子であれば足りると解するほかなく、それら同士が機械的に接続する機能を有する接続具(コネクタ)であると解すべき理由はない。なお、別紙図面Aは、本願発明の一実施例の構成を示すものものであるから、その記載を、金具(7)及び金具(11)が接続機能を有することの論拠とすることはできない。

一方、成立に争いのない甲第3号証(公開実用新案公報。別紙図面B参照)によれば、引用例1には、「6は、モジュール5のアンテナ接続端子部であり、上記アンテナ3の接続端子部4と接続されている。」(明細書2頁11行ないし13行)と記載されていることが認められるから、引用例1記載の6及び4が電気的接続を行う端子であることは明らかである。したがって、引用例1記載の「アンテナ接続端子部(6)、接続端子(4)」はその機能または構成からみて、それぞれ本願発明の「金具(7)、金具(11)」に対応するとした審決の認定に誤りはない。

また、原告は、「圧着」は接続後は離れることがないのに対し、「接触」は接続後も離れることが可能であるから、両者は異なる技術手段であると主張する。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲において本体(1)側に設けられた金具(7)と舌片(12)側に設けられた金具(11)とは「接触して接続される」と規定されているのみであることは前記のとおりであるから、本願発明は、金具(7)と金具(11)とが機械的に接触し電気的に接続されることのみを要旨とするものであり、その機械的な接触の具体的態様を特定するものではないと解さざるをえない。一方、前掲甲第3号証によれば、引用例1には、前記モジュール5のアンテナ接続端子部6とアンテナ3の接続端子部4との接続について、「接続は圧着または導電性接着剤等により行われる。」(明細書2頁13行、14行)と記載されていることが認められる。すなわち、引用例1記載の両端子部は、「圧着」等の態様によって機械的に接触し電気的に接続するものであることが明らかであるから、「圧着して接続」は「接触して接続」の一態様であるとした審決の認定にも、誤りはない。

よって、審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は、理由がない。

3  相違点の判断について

原告は、審決が相違点の判断において援用した引用例2について、引用例2記載の「導通用突起(34)」は本願発明の金具(11)に当たるものを有していないから「導通用突起(34)」は本願発明の「舌片(12)」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第4号証(公開特許公報。別紙図面C参照)によれば、引用例2には、「キーボード基板A31はバンド基体29に形成された導通用突起34まで伸びており、導電性ゴムより成るキーボード用コネクター37を介して回路基板25に電気的に導通している。」(2頁右上欄17行ないし20行)、「時計バンドと外装ケース内部との結合は外胴21に形成されたバンド導通穴35に時計バンドの導通用突起34を挿入することによって行われる。」(2頁左下欄5行ないし8行)と記載されていることが認められる。この記載によれば、引用例2記載の導通用突起34は、バンド基体29の本体側の一端に形成されており、バンド基体29内部のキーボード回路に電気的に接続されている導体を内部に有していると考えるべきことは当然である。

この点について、原告は、引用例2記載の「導通用突起(34)」が本願発明の金具(11)に相当するものを有していないことは、審決が「導通用突起(34)」は「キーボード用基板A(31)」と「回路基板(25)」とを、「導通用突起(34)」とは別個の部材である「キーボード用コネクタ(37)」を介して電気的に結合すると認定していることからも明らかであると主張する。しかし、引用例2記載の「導通用突起(34)」が、本願発明の金具(11)に相当する導体を有していることと、それがキーボード用コネクタ(37)を介して回路基板(25)と電気的に結合することとは何ら矛盾することではないから、原告の上記主張は当たらない。よって、引用例2記載の「導通用突起(34)」は本願発明の金具(11)に相当するとした審決の認定に誤りはない。

また、原告は、引用例2記載の発明は計算機付き腕時計に関するものであって、引用例1記載の考案が対象とする送・受信機付電子腕時計とは技術分野が異なるから、両者の技術的事項の組合わせは容易であるとした審決の判断は不当であると主張する。

しかしながら、前掲甲第3号証によれば、引用例1記載の考案は「ベルト内に組み込まれたアンテナを有することを特徴とする送・受信機付電子腕時計」(明細書1頁5行、6行)を実用新案登録請求の範囲とするものであることが認められ、一方、前掲甲第4号証によれば、引用例2記載の発明は「時計バンドにキーボードを設けたことを特徴とした電子時計」(1頁左下欄7行、8行)に関するものであることが認められる。このように、両者は、本願発明が対象とする「リストウオッチ型携帯機器」の技術分野に属する技術的思想である点において共通することは明らかであるから、引用例1記載のバンド型アンテナ装置の本体と腕バンドとの機械的接続及び電気的接続に、引用例2記載の構成を採用することは当業者が容易になしえたことであるとした審決の判断は、是認しうるものである。

さらに、原告は、本体と腕バンドとを軸と舌片とによって二重に接続して腕バンドの自由な回転を確保し、かつ、腕バンドを本体から容易に取り外すことができるという本願発明の顕著な作用効果は、各引用例記載のものからは予測しえない作用効果であると主張する。

しかしながら、引用例2には、前記のとおり「時計バンドと外装ケース内部との結合は外胴21に形成されたバンド導通穴35に時計バンドの導通用突起34を挿入することによって行われる。」(2頁左下欄5行ないし8行)と記載されているほか、前掲甲第4号証によれば、「時計バンドと外装ケースの固定には従来のバネ棒固定方式が使用できるため従来の時計バンドと全く同一の扱いが可能である。(中略)またバンド基体29と外胴21との接触部42、43の隙間を大きくとることによりバネ棒39を中心として時計バンドを動かすことができるようになり、時計バンドをより腕にフィットさせることができる。」(2頁左下欄13行ないし右下欄3行)と記載されていることが認められる。そうすると、引用例2記載の電子時計は、外装ケースと時計バンドとを、バネ棒39と導通用突起(34)とによって二重に接続しているものであるから、腕バンド(時計バンド)の自由な回転を確保し、かつ、腕バンド(時計バンド)を本体から容易に取り外すことができるという原告主張の本願発明の作用効果は、引用例2記載の電子時計においても当然に奏されると考えることができる。したがって、相違点に係る構成によって格別の作用効果を奏するものとも認められないとした審決の判断にも、誤りはない。

4  以上のとおりであるから、審決の認定判断は正当として肯認しうるものであって、本願発明の進歩性を否定した審決に原告主張のような誤りは存しない。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面 A

第1図は本発明の一実施例によるバンド型アンテナ装置を示す図、第2図は同バンド型アンテナ装置を実際に腕に装着した際にループアンテナを構成する様子を示した図である.

1……リストウォッチの本体、2……バンド部、3……結合用孔、4……接続用金具、5……竜頭、6……裹蓋、7……メス型金具、8…… み、9……金属板、10……金属板、11……オス型金具、12……舌片、13……ローディングコイル、14……高周波電源又は同 回路、15……フェライト.

〈省略〉

別紙図面 B

第1図は断面図、第2図は平面図である。

符号の説明

1:裏蓋部分、 2:ベルト部分、

3:アンテナ、 4:アンテナ3の接続端子部、

5:モジュール、 6:モジュール5のアンテナ接続端子部、

7:表側キャビネット、 8:ガラス。

〈省略〉

別紙図面 C

第3図は時計バンドにキーボードを別み込んだ 計み 付 子 時計の一実施例の断面図.

第4図はその平面図.

21……外胴

24……液晶パキル

29……可視性を有したブラスチック材より

…成るバンド 体

30……キー名称を印刷したキーボード化粧板

31.32……ブラスチックフィルムより成るキーボード 板A、B

33……スベーサー

34……バンド基体29に形成さんた導通用突起

37……キーボード用コネクター

35……バンド導通穴

36……バンド用防水パッキン

38……バンド

39……バネ

44……キー

45……モードキー

46……セレクトキー

47……セットキー

〈省略〉

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